出会い・感動インタビュー
エリザベス女王陛下から、「あなたは、お庭の魔法使いね」―エリザベス女王との出会い、
印象などを聞かせていただけますでょうか。
ひと言でいうと、“本当に純粋に庭が好きな方”だと思いました。2010年に元大相撲力士の朝青龍(第68代横綱)が僕のところに弟子入りしてきたんですが、その時に「風花(かざはな)」というテーマの庭をつくり朝青龍と一緒に行ったんですが、ちょうどその時、エリザベス女王が自分の庭に初めて入って来て くださったんですね。そして、庭の隅々をくまなく見て廻り、しみじみとした表情で、「あなたは世界一のお庭の魔法使いね」と言ってくださったんです。もう 最高に嬉しかったです。
―女王陛下からそのような賛美をいただく石原さんにとって「美」とは何ですか。
美の本質といってよいと思うのですが、私にとって「美」とはやはり「自然」です。始めにもお話したかと思うのですが、この世の中で、自然に優る「美」はな いと思います。きれいな小川、断崖絶壁に食いつきギリギリいっぱい必至で生きてる松の姿、あと植物のフォルムとか、何も手が入っていない風景とか、亜熱帯 地方に生きる鳥たちの姿とか、やはり自然そのものが本来の「美」の原型で、着物にしても絵にしても、その美を切り取って、人間はそれに近づこうとしている。例えば、初日の出の富士山に登って感じることは、自然には一切の無駄がない、動物もそう。その美しさの上にほんの少しだけエッセンスを加え、「やはり 石原さんの味が出てるね」ってそう言ってもらえたら最高ですよね。
―他の人にはない“石原さんのエッセンス”というのは、どういうものですか。
ズバリ、自分の場合は「懐かしさ」です。この景色が懐かしいと。ずーとここにいたいとか思える風景や匂い。例えば、いくらきれいなオブジェや美しい花がズ ラーっと並んでいても、見た目綺麗な絵に収まってしまうと、パッと見てすぐ飽きてしまうんですね。そうではなくて、ずっとここに留まっていたいとか、ホッ とするとか、落ち着くとかいう感覚で、それで例えば、人が争っていても仲良くなれるとか、笑顔になれる場になれば嬉しいですよね。そういう人と人の心が通 い合う、そういう場を、庭を通じて提供するのが自分の役割ではないかと思っているんです。故郷の原風景はみんな誰もが持っていると思います。
昔は貧しくて今ほど物質的には満たされていなかったけれども、みんな仲良しでしたよね。豊かでなくても緑に囲まれて食べ物がそこそこあれば、おそらくみ んな仲良くできるはずなんです。戦争の絶えない場所でも緑とかをもっと増やせば・・・。平和活動のひとつとしても緑や自然の力は活かせるのではないかと、結構、真剣に考えているのですが・・・。
復興都市「女川ガーデンタウン」―そういう中で、具体的に取組んでおられる街づくりやプロジェクトなどはありますか。
僕は今、毎月宮城県の女川町というところでウォーターフロント計画のお手伝いをさせていただいています。ご存知のように女川町も“311”の震災で街は全 滅しました。震災があって9000人居た人口は6000人くらいになって、たくさんの人が亡くなられました。この女川町ひとつとっても、世界は日本の復興していく姿を見ていると思うんですよね。それで復興のお手伝いをしながら思うことは、やはり街が復興するには、その街に住む人の仕事がないと復興にはならないということ。建物も立ち、緑もいっぱい植えても、そこにたくさんの人が各地から集り、仕事や流通が発生しなければ、やはり絵に描いた餅で終わってしま うと。
森ができますね、風が吹き、空気が澄み、太陽も照り付け、雨も降る。するとミネラルが豊富な土地になり、そしたらまたきれいな水の川ができて、魚も住みつく。そういう“善循環”のサークルができて、街並みや風景が美しいから、各地からたくさんの人が集ってきて、結果的にはたくさんの雇用が生まれるようになる。そんな「女川ガーデンシティ」を5年計画で予定しているんです。もしもこれが完成したら、日本、否、世界中の人たちが訪れてくれる緑の都市の見本になるのではないかと町長たちと話しているんです。
―もう少し具体的に「女川ガーデンシティ」の内容を教えていただけますか。
都市の環境を語るとき、まず美しくて本当に人々が憩いたいと思える場所がどのような場所なのかを考えないとだめです。ただ単にきれいに区画された土地を整 備するとか、街路樹を植えるとかではなく。ビジュアル的にものどかで本当の豊かな自然を感じる場所には自ずと人が集るんですね。結果、街全体の経済効果も上がる。僕はそう思っています。
それで、町長と話していることのひとつに「女川町7つのプロジェクト」があります。それはどんなものかというと、街に7つの大きな鐘を設置してですね、誰かが結婚式を挙げますよね、すると街のあちこちに設置した7つの鐘が同時に鳴り出すんです。その鐘を聞いた途端、みんながそれぞれの場所でその新郎新婦 の結婚を祝福する。別にその場に駆けつけなくても、人の喜びを自分の居る場所で喜び祝い合う。そんな人々の想いが重なる街の光景って素敵じゃないですか。万一、できなくてもいいんです。そういう街になることをイメージして誰かがトライしていくだけでも、それだけでも、街が幸せな空気に包まれていくような、そんな気がしませんか。
ディズニーランドには年間に1200万人以上の人が訪問します。また建築家のガウディが作ったスペインの「サクラダファミリア」には、今でも世界中からすごい人が集り街はどんどん活性化されてるわけですよ。それを越える緑のアミューズメントを日本の女川町で復興モデルにしたいんです。それだけでも世界から注目を浴びませんか。
―世界から注目される復興都市のモデルといういうのは壮大な計画ですね。
これからは高齢化社会でもありますし、みんなが集って感動を共有し憩える、テーマパークのような大きな庭園を作りたいですね。昔、『フランダースの犬』の中で、死ぬまでにせめて一枚の絵を見たいといって山から下りる前に死んでしまったというストーリーがありましたが、まさに思いはそんな感じでこれは自分が死ぬまでには絶対やり貫きます。今までは小さな国の中で九州の果てから東方面だけを意識してきましたが、よくよく考えてみると、それは日本しか見ていないということで、地球儀全体を見ていたら、その先には中国もヨーロッパもあって、飛行機に乗ってしまったら、別にみんな同じ島国で、世界のアミューズメントを作るなら、西や東の国境もなく、もっと大きな視点で世界を捉えていないといけないなあと。
植物がもたらす不思議な魅力―緑を普及することによってもたらす効果はどのようなものが考えられますか。
自分もこの仕事に何十年も携わってきているわけですが、まずは、「緑化活動にきちんと取組むことによって、経済効果を大きく生み出す」ということ。しっか りと人々が喜ぶことを実現させていけば、必ず経済的結果が得られるようになっているということです。例えば、今年6月にオープンしたウェスティンホテル(恵比寿ガーデンプレイス)では、お庭の完成によってホテル側の集客力も上がりました。また、羽田の国際線ターミナルにもお庭のゲートを作らせてもらっていますが、そこも毎日、大勢の人が集る場所になっています。また(今インタビューしている)このレストランでもそうです。美しいお庭や豊かな緑がある場所には、必ず人が詰め掛ける。ある時期から企業や公共事業でも、盛んに緑化が叫ばれ取組んできたと思いますが、それも予算がなくなると、中途半端なまま放置されてしまう。長い時間をかけなくても、人に喜んでもらえるものを作れば、最終的にその場所も美しくなり、経済効果をきちんともたらすことになるのです。それをたくさんの方にもご理解いただき、もっともっと国内にガーデンづくりを広げたいですね。
―最高のコミュニケーションツールとして、日常誰もが簡単に取組む方法は
現代人は、忙しいから「枯らせる」「場所をとる」「長持ちしない」などと、「世話がなかなかできない」という声を多く耳にします。自分は一般の人たちがまず植物に馴染むには、「3つの鉢」からスタートすることを提案しているんです。最近は科学の分野でも証明されているように、本来植物には人の健康問題の改善に多大な効果やヒールする力があるといわれていますが、最初にもお話しましたように、自然には、触れるだけで人の心が癒されたり、心が穏やかになった り、自然界にはもともとそういう能力が備わっているということでしょう。だから、まずは、「一家に3鉢」から始めて、家の中でも緑に親しむのは良い習慣だという意識をたくさんの人に持っていただけたらと思いますね。うちの青山のレストラン“風花(ふうか)”や、ここからすぐ側にある事務所も、フクロウが放し飼いにしてあるなど、まるでジャングルオフィスですよ。
アートも芸術全般にいえることだと思いますが、ガーデンづくりも同じで、自然には何の説明もいりません。“美しい”ものに対して人は無条件で受け入れる。だからそれ自体を取り入れる、昨今のように無機質で人と人のコミュニケーションさえ十分にできなくなり、携帯やPCでしか会話もできないような現代社会の中で、それはとても良いことだと思います。そういう生きた美、いきいきとした感動体験を重ね、お互いに語り合ったり、共感し合ったり。素晴しいですね。そういう本当の意味でのコミュニケーションを深めるツールとしても、「緑」はこれからもますます貢献するツールとなりそうです。
―最後に、チェルシー応援団を募集し、若いガーデナーを輩出しながら
緑のアミューズメントを実現する構想を聞かせてください。
チェルシーの自分の庭もそうですが、世界のあちこちから20万人の人が来るんですよ。みんな言葉は通じないのに、それでも来られた人たち同士、僕の庭を見て感動して、庭の前で泣くんです。「なんて素晴しいんだ!」って。この感動は現地でなければなかなか伝わるものではないかも知れませんが、見知らぬ国の外 国人同士が感動し合ってその場で一瞬にして仲良くなる。そして「日本の庭園は素晴しいですね」と賛美し涙するわけです。
その光景は、自分の方が感動しますね。今では現地のたくさんのサポーターやファンたちが、「この庭は日本の有名な石原という人がつくった庭で・・・」と、自分が説明しなくても、みんなが庭の前で説明してくれます。緑や自然はそういう人の心を開放する力があるのです。
庭を通じて世界の人々のコミュニティが生まれる、その機会を日本の若い人たちにも経験として味わってほしいと思っています。世界に出てはじめて実感しますが、日本はどの国から見ても本当に美しい稀有な国、また日本の庭園というのは、四季の“移ろい”や“侘び”“寂び”といった風情も加わり、世界の人から見ても特別な美しさを感じるようです。そういう日本にもっと誇りを持つことや、実際にガーデニングを世界の舞台で活躍する職業としても身につけられるように、チェルシーの庭園づくりには全国から僕の考えに共感してくれるパートナーを公募し、本気で取組む仲間が増えています。そういう仲間といっしょにさまざまな経験を共有し、いずれ歴史に残る、ディズニーランドを超える、緑のアミューズメントやオブジェ造りを、是非、実現したいと思っています。