出会い・感動インタビュー
他人の幸せが、そのまま 自分の幸せになって 返ってくるんです。-櫻田 厚さん
第7回目のお客様は、皆さんにもおなじみの存在である「モスバーガー」の櫻田厚さん。街中で、ホッと寛げる空間を提供してくれるモスの思いや信念は、櫻田さんの原体験にルーツがありました。他人の喜ぶ顔で自分も喜ぶ、という櫻田さんのシンプルな精神は、そのままモスバーガーに携わる全ての人へと浸透していったのです。全国のモスに共通してあふれる思いから、世界へと目を向ける未来の姿まで、櫻田さんならではのお話を、本社オフィスでたっぷりとうかがってきました。
櫻田 厚さん/株式会社モスフードサービス 代表取締役社長
1951年東京都生まれ。株式会社モスフードサービス代表取締役社長。高校卒業後、21歳の時、叔父の櫻田慧氏の誘いで「モスバーガー」の創業に参画1977年同社入社。1998年に代表取締役社長に就任。1972年にオープンした1号店をはじめ、現在は国内1380店舗(直営店69、加盟店1311)のほかに海外ではアジアに224店舗を展開している(平成22年8月現在)。「食」というテーマを柱に環境への配慮や高齢者雇用にも積極的に取り組み、手軽な利用と高品質な商品提供を両立させた「良質なファストフード」を志向して人気を集める。
―シャンゼリゼ通りにモスを
パリのシャンゼリゼ通りにモスバーガーを――初めて聞いた人には何のことか分からないかもしれませんが、これは私の 夢なんです。7~8年前にパリを訪れたとき、フッと浮かんだのですが、それからずっと抱いています。ルイ・ヴィトンの本店があることでも有名なので、 ちょっと足を運んでみたんです。たまたま工事中だったのですが、防護フェンスにもキレイに旅行バッグの絵が描かれていて、驚きました。世界的ブランドの誇りと、ホスピタリティのようなものを感じたんです。少し先にある仮設店舗は、日本人のお客さんでにぎわっていました。日本人も多いし、オシャレでシックな この一角にふさわしいバーガーショップはモスに違いない、という自信を持っています。また、そう思うことで背筋を正しいているような効果もあります。
たとえば、1階は20席ぐらいの広さにして、楕円形の小窓をつけよう。2階はゆっくりできるカフェのように する。そして窓から外を見ると、モスのフラッグが揺れているようなつくりはどうだろう、とか、いろいろなイメージを浮かべてみるんです。ギリシャのパルテノン神殿のような外観にしたらどうだろうか、とか。パリジャンの間でも、話題になってくれるんじゃないかな、とか思い浮かべてみるんです。また、パリにこ んなモスがあるよ、と日本人の間にも口コミで広がっていけば最高ですね。
そうやって、世界中のどこにいてもモスという空間で寛いでほしい。この計画は早くて3年、遅くても5年以内 には達成したいと思っているんですよ。今、アジアでも200店舗以上を展開していますが、ヨーロッパでもいつか必ず、できれば、パリのシャンゼリゼ通りに も。こんな風に、イメージするだけでも何かワクワクしてくるから不思議ですね。私はわりと、直感や感性を信じて行動する方かもしれません。たとえば新しい店舗を開くとき、調査データも活用するし、重視します。しかし、それだけでは型 どおりのことしかできないような気がするんですね。いつも同じ結果になってしまうのではつまらないですよね。唯一、そんなデータを超える要素だと思ってい るのは、感性です。そして、自分の感性を信じることができる信念も必要ですね。上手くそれらがミックスされたとき、他とは違ってオリジナリティあふれる結 果が生まれると信じています。もちろんそんな感覚を持って生まれた人もいるのでしょうが、私はといえば、たくさんの人に会うことでいろんなことを学んでき たと思うのです。いろんな人に会って、そのときしかできない話をする。聞きたかった、いろんな質問をする。同じ質問をしても、自分の思いもかけない答えが 返ってくることがある。それが頭の引き出しにスッと入り、いつか役立つときが必ずくるんです。そんな瞬間に出会うことが何より大事ですね。
―転機となった父の死と言葉
そうやって多くの人に会っていると、父が遺してくれた言葉が頭をよぎります。「偉い人になるな、立派な人になれ」。「偉い」と「立派」の違いはどこにある のか、よく考えるし、考えさせられる場面も多いです。「偉い」というのは本来素晴らしいことなのだろうけど、「偉そう」、「偉ぶる」など、一歩間違うと皮肉のような響きをもっていわれてしまいます。そこには「横柄」や「横暴」などのように、違うネガティブな言葉への連鎖も含んでいますよね。ただ偉いだけで は、「裸の王様」のようでダメなんです。
一方、「立派」という言葉の中に私が見出すのは、「素直」や「謙虚」などの気持ち。本当の人格者をイメージできます。仕事柄、多くの人と会って話をする機 会に恵まれていますが、本当に「立派」な人は、年上であっても私の目を見て「櫻田さんは……」と語りかけてくれる。しかし、「偉い」だけの人は「君は ねぇ……」といった態度で接してくる。それだけでも、全然違いますよね。そんな人は、やはりそれだけの人だな、と思ってしまいます。そんなところから、最近になってやっと、少しずつですが父の言葉の意味と重みが分かりかけてきたんです。
実は、この父が亡くなったことが、私の人生で最大の転機だったんです。17歳の高校生のときでした。当時通っていた 進学校では、ほとんどの生徒が大学受験をしていた。普通なら、私も間違いなく大学へ進学していたでしょう。しかし、父が亡くなったことで、母が働くことに なり、私も家計を助けるためにアルバイトを始めたのです。それから、いろんな飲食店で働きましたが、すごく楽しかったですよ。仕事はもちろんのこと、諸先 輩方と毎日のように語りあって、社会のイロハを学びました。
実はハンバーガーを初めて食べたのも、この時期なんです。外国人の多い横須賀のスナックで。18歳のとき で40年以上も前ですから、周りにもほとんど食べた人がいなかったはずですよ。そのときはまさか、バーガーショップの社長になるなんて想像もしてなかった ですけど、今思うと、不思議なものですね。
その後、いったん企業に就職しましたが、21歳のときに叔父が開業したモスバーガーに入ります。働いてい たおかげで、新しい場所にもスッと入れました。高校を卒業してからの3年間は、いわば私のベースとなった期間のような気がしますね。最初は成増にある1号 店で、バイトからのスタートでした。