出会い・感動インタビュー
フロン全廃の先陣をきって。―高木さんは会社のフロン全廃にも、
大きく関わったとお聞きしました。そのときにも「非対立」の大切さが、
大きな役割を担ったそうですが。
1989年にフロンガス削減のためのモントリオール議定書会議が行われ、「2000年までに特定フロンを全廃」との決議がなされましたが、日本は合意しま せんでした。理由は、業界の大きな抵抗があったからです。私は何かできないかと模索していました。当時、私は本社技術企画室の副参事で、社長と話す機会が 多くありました。いろいろと考え抜いた末、社長室に向かいました。
私は、それまでの経緯を社長に説明しました。社長は、自分の会社も含んだ業界が反対していることに驚き、解決策を私に求めました。私は業界トップのわが社 が先陣を切ってフロンを止めることが一番の解決策であること、そしてそれには約100億円の予算が必要となることを伝えました。大きな期待を持って待って いる私に、社長は「しかし、うちがやめれば、他社が怒るだろうな…」と口にしました。ショックでした。しかし、私が下手なことを言えばチャンスはつぶれて しまいます。対立は何も生み出しません。「非対立」を心に念じながら、社長と話を続けました。
徐々に社長は「うちがやらんと、どこもやらんだろうな…」と考えるように。ところが最終的な社長の答えは「私は経営者だ。君も科学者としてではなく、経営 者の観点で、もう一度考えてくれ」だったのです。またしてもショックでしたが、私は「分かりました。少しお時間をください。ありがとうございました」と言って、社長室を後にしました。
―当初、フロン全廃計画の話は思うようには進まなかったわけですね。
そうした状況を「非対立」によって、どのように進展させていったのですか。
私は「経営とは何か」について悩み、いろいろと考えました。図書室で経営について調べているとき、驚くような発見をしたのです。そこにはこう書いてありま した。「経営とは、一生かけて心理を求めること」であると。急いで社長室へ行き、このことを伝えました。社長は「なるほど、経営にはそんな意味もあったの か。知らなかった。で、どうすればいいんだ?」と聞いてきました。
私は答えました。「社長、わが社がフロンをどうすればいいか、一生かけて答えを求めてください」と。「それでは、間に合わないではないか」と社長。私は 「すぐにやめるには100億円必要です。経営という観点で申しますならば、一生をかけて真理を求めるしかありません。」と答えました。長い沈黙の後、社長 は遂に「わかった。フロンをやめよう」と決断したのです。
その時、歴史は動きました。私はこのときほど、「非対立」の大切さを実感したことはありません。抗議、要求、説得ではなく、相手の立場に立って、相手の懐 に入っていく。相手の視点で見て、相手の気持ちで解決策を考える。これが「非対立」なのです。そして1989年7月20日に「松下電器、モントリオール議 定書よりも5年早い1995年までに特定フロン全廃を決定」と新聞発表されました。多くの大手企業からクレームが殺到しましたが、会社がこの決定を覆すこ とはありませんでした。
ネットワーク「地球村」の活動。―松下電器を退職される前から、「地球村」の活動を始められていますが、
現在のネットワーク「地球村」の中心となる活動を教えてください。
現在、私自身が、そしてネットワーク『地球村』が取り組んでいるものの中で、最もウエイトの大きなものが「人道支援」であり、2番目が「環境問題」です。 人道支援としては、もちろんアフリカや東南アジアなどの開発途上国に暮らす貧しい人たちの全員を何とかしたいと思っていますが、まずは小さな子供たちを救 うための活動に尽力しています。
そうした国々の子供たちは、生きるために過酷な労働を強いられています。それも一般的な労働だけではなく、いわゆ る性的な労働を強いられている場合が非常に多いのです。年齢的には10歳ぐらい、ひどい場合は10歳以下の子供らが悲惨な状況に陥っています。また、裕福 な家庭の子供たちのために臓器移植を強いられる子供もいます。この命そのものが売買されるような状況を何とかしたいと思っています。特にひどいのはインド であり、比率が高いのはカンボジア、そしてアフリカの国々です。
貧しい国々の子供たちを救うために多くの市民グループが動いていますが、私たちネットワーク『地球村』は、いまこの問題に最大の関心を向け、最大の支援を しています。これらは映画「闇の子供たち」の中で詳細に取り上げられていますので、ぜひ一度ご覧になっていただき、より多くの方々にその現実を知ってほし いと思います。
―ネットワーク『地球村』では、植林や森林保護区をつくるといった、環境問題に尽力されているということですが、
具体的にお聞かせください。
森に関する問題は、地球温暖化、砂漠化、生物の種の絶滅なども含めて、あらゆる地球の問題の中でも規模として最大のものです。地域的にはアフリカ、アマゾ ン、東南アジアがクローズアップされていますが、ネットワーク『地球村』としては、すでにアマゾン地域での植林、そして森林保護区をつくる活動を始めてい ます。実は途上国の場合、森がなくなることで人々が貧しくなっていくという構図があり、人道支援と森の問題は切っても切れない関係になっています。
まずは貧しい国の木を伐らないこと、これが基本です。その上で私は皆さんに「コーヒーを飲まない、チョコレートやバナナを食べない」ことを訴えています。 こうした熱帯性の植物から作られる飲み物や食べ物を、日本をはじめとする先進諸国がどんどん消費する。すると、もっともっと農園が必要になる。結果とし て、貧しい人々の土地が奪われて、農地が広がっていくのです。「貧しい国のものを買ってあげることで、貧しい国を豊かにしてあげる」という発想は根本的に間違っています。それで潤うのは貧しい国の政府や大企業やブ ローカーで、本当に貧しい人たちはさらに貧しくなっていってしまう。このことを、より多くの人たちに知ってもらいたいと思っています。 今後も、私たちネットワーク『地球村』は、飢餓貧困の救済、人道支援、環境保護を通して、みんなが幸せな社会を実現するために最大限の努力を続けていきま す。